JF全漁連は3月2日(水)、東京・千代田区のホテルグランドアーク半蔵門で第27回全国青年・女性漁業者交流大会(協賛:全国漁協女性部連絡協議会・全国漁青連、後援:農林水産省ほか)を開催し、農林水産大臣賞のほか水産庁長官賞などの各賞を決定しました。
最優秀賞の農林水産大臣賞の受賞者は以下の表のとおりです。審査委員の講評、審査委員長総評は表の次に掲載しております。
≪全国青年・女性漁業者交流大会について≫
全国の青年・女性漁業者が、日頃の研究・実践活動の成果を発表し交流する、年に一度の大会。水産業・漁村の発展・活性化のための技術・知識などを研鑽することを目的としています。「資源管理・資源増殖部門」「漁業経営改善部門」「流通・消費拡大部門」「地域活性化部門」「多面的機能・環境保全部門」の5つの部門に分かれて漁業者らが活動発表を行い、より優れた活動には農林水産大臣賞などが与えられます。審査員は、部門ごとに専門家が行います。また、本大会は農林水産祭参加表彰行事であり、農林水産大臣賞受賞者は、来年度の農林水産祭天皇杯などの候補になります。
なお、例年は都内の会場に参集し、発表・審査・表彰を行いますが、今年度は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、オンライン配信で実施しました。
■各部門の農林水産大臣賞受賞者の講評のポイント
【第1分科会】「資源管理・資源増殖部門」
カキ養殖において春先に頻発した稚貝の食害を食い止めるため、水中カメラによる原因究明から始まり、原因がクロダイ、イシダイであることを突き止め、それに対する対策について普段の作業の中から「束ね垂下」というものを編み出した。簡易的に手間をかけずにクロダイなどの食害を防ぐことができるということで、すでにこの取り組みの効果が表れてきており、豊前海、そのほかの地域でも普及し始めていることを高く評価した。
この取り組みは食害を防ぐだけでなく、養殖カキを効果的に高く販売するというところまで取り組みが進み、限られた資源で漁業経営を効果的に行っていくという観点からも評価できる。
【第2分科会】「漁業経営改善部門」
バッチ網漁業において、船団操業支援システムを導入して操業を効率化、生産性を上げる取り組み。情報システムを利用したスマート化を実践している。また、漁閑期に農業(ピーマン)を兼業することで年間を通じた収入の安定化を図っている。漁業経営の改善を新しいアプローチで成し遂げているという点で評価した。
先進的スマート漁業は大中型巻き網など大型漁業で進んできており、沿岸漁業ではなかなか進まない中、注目される。船団操業の新システムは拡張性があり、沿岸漁業でもこのようなスタイルの漁業の発展が期待されると考える。
【第3分科会】「流通・消費拡大部門」
「流通・消費」は、①良いものを「生み出す・発見する・作り出す」、②その良さを「伝える」、③実際に販売して「届ける」という3つの要素が必要とされる分野。
この事例は、「生み出す」「伝える」「届ける」という3側面で優れた取り組みを行っていることを高く評価した。加えて重視したのは、長年の取り組みを通じて、平成28年ひたちなか市魚食の普及推進に関する条例が新たに制定され、魚食を通じた地域振興の取り組みが新たに広がりを見せているということ。もう一つ重要な点は、このような活動の担い手が子育て世代の若い人に広がっていること。このことは活動の継続性や発展性を示唆するものと考えられ、高く評価した。
【第4分科会】「地域活性化部門」
元々複合経営を行ってきたが、今の状況にあうものにするために、現状を冷静に分析し、今日的な課題を抽出して、その上で目標設定をして解決に向けて活動していくプロセスが非常に分かりやすく報告されていた。漁業者同士が連携して資源管理をしたり、他地区との連携で新しい技術の導入を図ったりすることなどを試して、着実に実践に結び付けて漁業の継続に向けての活動が行われていること。またこの取り組みを若手の漁業者が盛り上げている姿が印象深く伝わってきたことを評価した。
【第5分科会】「多面的機能・環境保全部門」
この取り組みをしている船曳網の漁業者は、干潟を生産の現場にしているわけではないが地元で長年親しんできた干潟の潮干狩り場が閉鎖状態になったことを受けて、食害対策や稚貝の分布調査をして効果を検証しながら、研究機関、普及員、地域の協力を受けて取り組んできた。その結果、近年になって増殖効果が目に見える形になってきている。 タイトルにもある通り、地元の小学校と協力した干潟環境学習などを行うほか、船曳網漁業の漁閑期の副収入を得られないかと考え、干潟でのカキ養殖にも取り組んでいる。普通に養殖するのではなく、カキのオーナー制度を導入し、地元の観光協会とも連携し、都市部の消費者にも目を向けて取り組んでいる。このようにさまざまな新しい取り組みに挑戦していることや、子供たちと連携して地域ぐるみの活動をされていることなどを高く評価した。
■馬場治 審査委員長(東京海洋大学名誉教授)の総評
2年続けてコロナ対策によるオンライン開催となり、部門によって発表数に偏りがあった。特に時間をかけて環境を回復するなど、地道な活動が多い「多面的機能・環境保全部門」は発表数が減少傾向。華々しい活動がクローズアップされがちだが、このような地道な活動も改めて評価し、重要性を問いかけていただければと思う。
また、魚食普及・食育の活動はいまだに多く見られる。この活動は、「栄養」に着目したものに偏っているが、本来的には「自国で食べるものは自国で生産する」ための活動でなければならないと思う。自分が食べているものがどのような人たちの手によって届けられているのかを知ることができるような活動も必要だと思う。
成長産業化という言葉は養殖業や沖合の規模の大きい漁業に光が当たっているようにみえるが、日本の食の彩ということを考えると沿岸の小規模な漁業による細やかな商品が非常に重要な役割を持っている。そのような重要な役割を担っている沿岸漁業という一つのセクターにいる皆さん方の益々の取り組みに期待している。 また、本大会を含め、漁業者の活動には、漁協や行政、試験研究機関の協力が不可欠。そういった方々の漁業者との接点がもっと広がることを希望する。